三島由紀夫「金閣寺」
読書の秋の冒険
その読書はバリウムを飲むようだった。
自分にとっては必要不可避な行為で、だれに求められたものでもない。慎重に飲み下すそれは、最終的に跡形もなくわたくしから去っていくと思われた。
今までにない読書体験
読み進めながら、一冊の書物に己の未知の内側がストロボをたいたように刹那刹那照らされる感覚を覚えた。
自然美や造形光の、滑らかで淀みない描写に酔いしれた。
日本語のパワー
わたくしの3歳児のような思考回路は「快・不快」程度のアルゴリズムしか持ち合わせていない。
それゆえ分離不可能な「美・醜」に目眩を覚える作品世界に、衝撃を受けた。こんなにも日本語とは力のあるものなのか。
残響ボディーブロー
時間が経てば元の黙阿弥だろうが、この読後感はしばらく尾を引きそうだ。
一冊の書物で、これまで安穏としていた自分のどこかが揺さぶられてしまった。
果たして、これで良かったのだろうか。